ついに世界の猛者が福岡に集結！
日本からも五郎丸、藤田、山沢がスコッド入り
いつも上品な指揮官は、上手に試合の価値を口にした。10月28日（福岡・レベルファイブスタジアム）に日本代表と戦う世界選抜のロビー・ディーンズ ヘッドコーチ（以下、HC）だ。試合の5日前におこなわれた記者会見の場だった。
11月4日のオーストラリア代表戦を皮切りに、トンガ（11月19日）、フランス（11月24日）とテストマッチを戦う日本代表にとって、世界の強豪と戦う前の大切な準備。その時間をともにする者として、自分たちの立場をしっかり認識した言葉だった。
「ジェイミー（ジョセフ日本代表HC）と（アシスタントコーチの）トニー・ブラウンのコンビでチームはこれからどんどん先に進むだろうし、現在もうまく準備は進んでいると信じています。が、本当にそうなっているかどうか、試合を見て、皆さんの目で確かめてみてください」
同HCは、テストマッチと同等のタフさとスキルを持ったチームを編成するため、「何度も午前3時に電話しなければいけませんでした」と笑った。自身もオーストラリア代表監督を務めていた経験がある。ワールドカップに向かう道の途中で必要なものは分かっている。ジョセフ日本代表HCの期待と、エキサイティングな展開を求めるファン、その両方の期待に応える陣容を揃えた。
ともすれば、ショー的な要素が強くなることも少なくないチャレンジマッチ。しかし、本気の戦いを呼ぶ要素の中で大事なものがリベンジのスピリットなら、世界選抜は、その気持ちに溢れている。
筆頭は元南アフリカ代表主将のHOアドリアン・ストラウスだ（ブルズ）。2015年のワールドカップでは、日本が世界を驚かせたあの試合に途中出場した。多くのファンが喜んだ世紀の一戦は、敗れた側から見れば屈辱の80分。今回、どれだけの思いを持って赤白のジャージーに挑むだろう。その胸中は想像に難くない。プライドを懸けて戦う。
「悔しさ」をパワーに変える選手は他にもいる。パナソニック ワイルドナイツのSO山沢拓也とFB藤田慶和だ。ふたりとも、今回の日本代表選出の材料となったナショナル・ディベロップメント・スコッドの合宿に招集され、自身の強みをアピールしたものの願いは届かなかった。今回は目指したジャージーと対峙する側に回ったが、ジョセフHCの目の前で、桜のエンブレムを付けた選手たちを超えるパフォーマンスを心に誓っているはずだ。
経験豊富な元イングランド代表LOジェフ・パーリング（現宗像サニックスブルース）や、サンウルブズで世界レベルの輝きを証明してきたLOサム・ワイクス（パナソニック）、FL/NO8エドワード・カーク（キヤノンイーグルス）、ヴィリー・ブリッツ（NTTコミュニケーションシャイニングアークス）らがいる。百戦錬磨の元オールブラックス、SHアンドリュー・エリス（現神戸製鋼コベルコスティーラーズ）。世界の精鋭たちは、山沢、藤田の潜在能力を残さず引き出してくれるのではないだろうか。
そして、忘れてはならないのが、FB五郎丸歩だ。2015年のワールドカップを機にオーストラリア、フランスで多くの知見を得た男は、今回の日本代表からは漏れたものの、世界の中の「日本の顔」である責任を果たす覚悟ができている。
「日本の選手が海外のセレクトチームで戦うことはこれまでほとんどなかったと思うので、日本人の価値を高められるようなプレーをしたい」
そう話した五郎丸は言葉を継いだ。
「生まれ故郷の福岡でプレーできるのは嬉しいし、自分が2015年にジャパンとして世界選抜と戦ったときは、チームのいる位置が分かる試合となりました。今回も同じように、ジャパンにとっていい準備になるなら嬉しいですね」
そんな言葉を口にするかつてのチームメートや、世界のスターたちを目の前に、闘志を燃やさぬ者はいないだろう。日本代表はこの秋から、あらためてFL/NO8リーチ マイケルをキャプテンとした。ジョセフHCは、「彼の経験は必ずチームの財産となる。誰もがリーチにはついていく」と任命の理由を話し、「（この秋の）4試合すべてに勝つ」と決意表明した。
互いに攻め合うスタイルが、バーバリアンズスタイルのチームと国代表チームが戦うときによくある光景も、この試合はそうはならないだろう。
ぶつかり合うのは、鍛えられた肉体同士だけではない。互いのプライドが、その場の空気をテストマッチレベルに引き上げるだろう。
文：『ラグビーマガジン』編集長 田村一博
