陽気な国民性を想起させるジャージーの色はグリーン&ゴールドと表現される。そのシャツを着て走り回るナショナルチームの愛称はワラビーズ。オーストラリアに生息するカンガルー科の小型動物、ワラビーはすばしっこい。
伝統的にランニングスタイルを得意とする同国代表。試合時にはピッチのタッチライン近くにワラビーのぬいぐるみが置かれる。ジャージーの胸にワラビーのロゴが縫い込まれた時期もあった。サポーターたちの中には、カンガルーに仮装してスタジアムに向かう人たちも大勢いる。
ワラビーズは1987年の第1回大会以来、8回の歴史を重ねるラグビーワールドカップの歴史の中で2度の優勝に輝いている。3度優勝のニュージーランドや、2度頂点に立った南アフリカ、2003年大会で優勝したイングランドなど、他の優勝国が万能アスリートや剛健な大男たちを揃えて栄光をつかむ一方で、ワラビーズはいつも知恵を絞り、工夫を凝らして世界の先頭に立ってきた。国内に13人制のラクビー・リーグや、オーストラリアン・ルールズ(オージーボール)など、他の楕円球スポーツが盛んに行われているため、人材が豊富にいるわけではない。普通に戦っていては勝てないし、魅力的でないと、国内でラグビーをやる人も観る人も増えないからだ。
そんな環境下で隣国、世界最強国のニュージーランドと、ブレディスローカップを懸けての対抗戦を毎年繰り返すのだから、真っ向勝負を挑むだけではかなわない。練習でも試合でもあの手この手を尽くして好敵手を本気にさせ、ときどき痛い目に遭わせる。そんな歴史を刻んできたから、ワラビーズが勝つときはいつも痛快。手にした勝利は長く語り継がれるものばかりだ。
2015年のラグビーワールドカップで日本代表を率い、南アフリカ代表を破るなど3勝を挙げて世界を驚かせたエディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(現イングランド代表ヘッドコーチ)はオーストラリア・タスマニア生まれで、ワラビーズの指揮官を務めたことがある。2003年、同国を舞台に開催されたラグビーワールドカップでチームを率いて準優勝。セミファイナルでオールブラックスを倒しての躍進だったから、地元ファンは熱狂した。同大会での成功も、知恵を絞り、工夫を凝らした結果だった。エディーをはじめ優秀な指導者がこの国から生まれるのは、大昔からそんな土壌があるゆえだ。
世界的に見れば決して体が小さいわけでも、才能がないわけでもないのに、オールブラックスとやり合う日常が、「柔よく剛を制す」のスピリットを豪州代表のアイデンティティーにした。名門私立校出身のエリート、先住民アボリジニの血を引くアスリートもアイランダーも、グリーン&ゴールドのジャージーを着たら、野を駆けるワラビーになる。このチームがいつも観る人々をわくわくさせる理由は、そこにある。
文:『ラグビーマガジン』編集長 田村一博