日本代表 vs オーストラリア代表
オーストラリア戦レビュー

またかよ。
序盤の失点に、そう舌打ちしたファンもいたかもしれない。キックオフから10分で2トライを奪われた。前半を終わって3-35。勝負は早々に決まった。

しかし、世界ランキング3位の相手から3トライ、30点をもぎ取ったことに光が見えた。
そんな表現には、こんな反応も当然だ。
笑わせるな。

11月4日、日本代表はオーストラリア代表に9トライ、63点を奪われて大敗した(30-63)。サクラのジャージーは、2019年ワールドカップの決勝戦の地、日産スタジアムに集まった4万3621人のファンを沸かせることはできたが、それ以上にため息をつかせた。グリーン&ゴールドのアスリートたちは、大きく、速く、うまくて強かった。
特に序盤、その勢いに飲み込まれた。結果、規律が乱れて攻略された。だから決着はあっという間についた。

そんな大敗の中でも、日本代表の選手たちが、勤勉にタックルをし続けたのは事実だ。
福岡で世界選抜に27-47と完敗してから1週間。ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチのもとでハードなトレーニングに励んだ成果は、覚悟を決めて一斉に前へ出るディフェンス、そして、激しくしつこいブレイクダウンに見られた。

しかし、勤勉さではワラビーズの愛称で知られる相手も負けていない。好敵手である世界最強のニュージーランド代表はアスリート軍団。そんな強敵に勝つことを常に考えている集団なのだから。
日本代表が何度タックルしようが我慢強く攻撃を継続した。機を見て巧みにオフロードをパスをつないで作ったチャンスに、好ランナーたちがダイナミックに駆けた。この日のワラビーズのBKは、11番から14番までフィジアンが並んだ。FWが強ければ世界トップクラスなのに…と言われるフィジー代表。その1番から8番を強化した理想のチームようだったから、攻撃力は抜群だった。

テストマッチだ。勝つか負けるかだけを問われる。
だからこの日の日本代表は、責任を果たせなかった。それだけだ。日本でおこなわれた両国初対戦の記録欄にはダブルスコアが刻まれる。
ただファンの目には、前週とは違うチームのパフォーマンスも映った。そして、コーチたちのメモにも、進歩した部分が確かに記された。足りない部分は、その数倍あるだろうが。

改善された点は、ジョン・プラムツリー コーチ就任のこの秋から取り組む前へ出るディフェンスの浸透度だ。以前より高まった。
思いきり前に出て、相手が身体的強さを発揮する前にタックルに入る組織的な動きが何度もくり返された。ジャパンからのプレッシャーに、しびれを切らした相手がキックを蹴ってボールを手放すこともあったし、途中のブレイクダウンでターンオーバーに成功することもあった。

その一方で、個々のタックル力が足りないことも誰の目に見ても明らかだった。
粘り強く守っても、やがて破られる。あるいは、カウンターアタックを仕掛けられてそのまま走られる。SH田中史朗は、「全員に(前に出る)意識はあったし、ダブルタックルで押し込んだり、ターンオーバーできたこともあった。しかし、その数をもっと増やさないといけないし、最後まで続けないといけないチームとして、もっとハードワークしないといけない」と攻防を振り返った。
リーチ マイケル主将も、「自分たちがやりたいラグビーに、フィジカル、フィットネスが足りていない」と言った。

試合後、オーストラリア代表のマイケル・チェイカ監督もFLマイケル・フーパー主将も、日本代表のブレイクダウンに高評価を与えた。実際、ワラビーズは何度もボールを奪われたし、密集に頭を突っ込んでなお足を動かし続ける日本代表のレッグドライブに手を焼いた。
そこで苦しんだ様子は、オーストラリアからやって来たジャーナリストたちの目にも印象深かったようだ。オーストラリア協会のホームページや各メディアが報じた記事中に掲載された、ワラビーズ各選手の評価。バックローの3選手には、総じて採点が辛かった。ボール争奪戦でジャパンに何度もボールを渡した責任を問われた。

日本代表を率いるジェイミー ジョセフ ヘッドコーチは、前半3-35、後半27-28だった80分を「前半は規律守れず、スクラムも押され、プレッシャーを受けた。後半は、相手にプレッシャーをかけることによってどうなるか力量を見せられた」と振り返った。
「大きな相手を止めきれず、オフロードパスを許して勢いを与えてしまった。プレッシャーを受ければ個々が無理をするから崩れる。チームで対応し続けないといけない」
個と組織の一歩一歩の成長を感じながらも、世界トップクラスに勝つレベルにはまだ距離があることを認めた。
厳しい表情で臨んだ試合後の会見だったが、初テストマッチながらもハードに働き、ミスをしながらも最後にはパワーでトライを奪ったLO姫野和樹については「ハードにプレーしてくれた。ミスもあったが、いい経験になったはずだ」と少し頬を緩めた。

試合序盤のゲームメイク。キックを織りまぜた攻撃の技術、戦術の習熟。そして防御力。2019年のワールドカップでトップ8、トップ4に入るためには、それぞれを現在の何段階も上に高めなければならない。残る2年、時間との勝負だ。
間に合うのか。
2週連続で大敗を見せられて周囲の不安が増す中、リーチ主将は言った。
「もう少し強化の時間があったら変わる。チームは首脳陣も選手も同じ方向を向いている」
2015年のワールドカップで、世界を驚かせたチームを率いた男の言葉に嘘はないだろう。しかし、前回大会の2年前に示したウエールズ撃破のような、進歩の足跡はまだ残せていない。
各局面での成長のスピードをもっとはやめることと、チームのものとすること、勝利に結びつけることが求められる。選手にもファンにも、はやく勝利が必要だ。
  
文:『ラグビーマガジン』編集長 田村一博

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