7トライも奪われた。
27-47。
雨の中、サクラのジャージーが何度も背走するシーンを1万303人のファンが見つめた。
残念だ。みんな、次週のオーストラリア代表戦が楽しみになるような試合内容を期待していたのだから。
10月28日、福岡・レベルファイブスタジアム。日本代表は世界選抜に完敗した。集まって1週間足らずの相手にこれでは、世界ランキング3位と戦う11月4日の試合はどうなるのか。
大切な時間帯に点を取るのは世界選抜ばかりだったから、勝機はほとんどなかった。
前半6分。ターンオーバーから攻撃を重ねられると防御が崩れ、この日は黒いジャージーを着たWTB藤田慶和に先制を許した。
ハーフタイムを13-14で終え、さあこれから、と思ったら、後半4分にサンウルブズで活躍するLOサム・ワイクスにトライを決められ、その後23分までに続けて3トライを許す。13-40とされては勝ち目はなかった。
SH田中史朗、WTB山田章仁が早々に、SO田村優も後半10分までにアクシデントで交代する非常事態も、自分たちの流れを作り出せない要因となった。
がっかりしたのはファンだけではないだろう。オーストラリア戦のメンバー入りを懸けてアピールしたかった若い選手たちの多くは、自身の力を印象付けられなかった。世界選抜の選手たちはフィジカルが強く、その力量差は特にブレイクダウンで顕著だった。
1年ぶりに赤白のジャージーを着たレメキロマノラヴァは、昨年11月のテストマッチデビュー戦からの2試合で3トライを奪った力を取り戻していることを示し、先発したCTBシオネ・テアウパや途中出場のPRヴァルアサエリ愛、NO8フェツアニ・ラウタイミらはパワーを見せつけた。
しかし、それらの力が組織の中で生きる局面は少なく、他のヤングパワーたちはチームに勢いを与える存在にはなれなかった。
この日の快勝と、その先にあるオーストラリア戦のビッグチャレンジを頭に描いていたファンの目には残念なことばかりが目に映った雨中の80分。
しかし当事者たちの感覚は違った。
ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチも、リーチマイケルキャプテンも前向きだった。
指揮官は、「まだ細かく検証できてはいないが」と前置きして言った。
「前に出てプレッシャーをかけられていたと思います。前半、相手に有利にボールが転がって2トライを取られましたが、ディフェンスはこのままの方向性でやっていっていいと思う。両チームにミスがでたが、それは、自分たちは初めて組むコンビネーションが多く、経験の浅い選手もいたため。(その中でも)それぞれの決意は見られたと思います。また、両チームともうまくコントロールできない試合でもあった。しかし、22㍍ライン内に入った後の得点力の差が出て、こういう結果となった。ただ、そういう相手を、私たちは(対戦相手として)求めていた。これから強豪との試合が続くが、まずオーストラリア戦は大きな試練となる。今日は、それに向けたいい準備ができた」
キャプテンも、「いい部分もあったし、課題も出た試合」という言葉に続けて言った。
「目標はオーストラリア代表に勝つこと。そのためにやらなければいけないことが分かった。ブレイクダウンのクオリティーを上げないといけない。そこができないと自分たちのラグビーはできないから、この1週間、キャプテンとして練習からその部分に高い意識をもたせることをやっていきたい」
これまで以上に前に出る新しいディフェンスシステムについて、アンストラクチャー時が不安定なこと。雨の日への対応。そして、チーム内競争を上げなければ。
それらを現状足りないものとしたキャプテン同様、SH流大も、防御の大枠は全員が理解し、遂行しているものの、「まだ形を追っている段階。もっとコミュニケーションが高まればよくなる」とピッチ上の体感を口にした。
お互いのプレー内容に点差ほどの差はなかったが、決定力の違いがスコアに表れた。
そう分析した敵将の、ロビー・ディーンズ監督は、指導者の視点で試合を振り返って言った。
「新しく取り組むことがうまくいくようになるには、時間が必要なもの」
そう考えるなら、ファンの頭に浮かんだように、すぐにキックオフがやって来るオーストラリア代表戦への展望は揺らぐ。世界選抜戦の経験を活かした最高の準備と、選ばれしメンバーたちのプライドで不安を払拭し、強豪との差を詰めることができるだろうか。
ただ、福岡での完敗は、2年後を悲観するものではない。
一歩ずつでも前へ。その歩調が早まる日よ、はやく。
文:『ラグビーマガジン』編集長 田村一博